解析力学入門(静力学)

仮想仕事の原理入門と本ページは対になっています。
両方読むことを勧めます。

全体像

解析力学はそもそも200年前、フランス革命前夜に執筆され革命後に出版された古典的名著、"Analytical Mechanics" (J. L. Lagrange)をその起源に持ちます。
本書は静力学の解説に第一章が充てられており、そこでは仮想仕事の原理が、静力学における唯一の解析的表現として確信をもって提言されています。
本書では、仮想仕事の原理は問題を解くテクニックではなく、"表現"として再提案されます。現代において仮想仕事の原理が未知数と方程式の本数の一致という観点から論じられることを考えると、これは大変興味深いものです。
ここでは、解析力学第一章の逐語訳を掲載し、解析力学を再考します。参照元はKluwer から出版された英語訳で、BSPS(Boston Studies in the Philosophy of Science)の191巻です。

解析力学 J. L. Lagrange著

第1部 静力学

第1節 静力学の様々な基本原理1

静力学(Statics)とは複数の力の釣り合いに関する学問です。(Force or power)とは要するに原因で、物体(body)に作用し運動を引き起こすような何かです。力により生じた、もしくは力が生じさせようとする運動を計測することによってのみ力は測られます。釣り合い(equilibrium)の状態において、力は眼に見えるような作用は持ちません。ただ、それが作用している物体に運動させようとする気配のみを我々は感じます。しかし、ある力の大きさは、他の力による運動の妨害がなくなったとき、生じる運動によってのみ計測することができるといえましょう。力やその効果を統一的な方法で評価すれば、力同士の関係は単に数学的な比率の問題となり、我々はこれを複数の線分によって表現します。2以上が機械力学(Mechanics)で力が取り扱われる大まかな理由です。
釣り合いは、互いに作用しあい運動を打ち消しあうような複数の力の平衡によって実現します。静力学の目標とは、そのような平衡状態における法則を定式化することにあります。そのような法則はいくつかの一般原理(general principles)の上に構築され、一般原理は実質的に3つに絞り込むことができます。順にてこの原理,力の合成の法則,仮想速度の原理です。3

1.古代において、我々が入手できる力の釣り合いに関する文献はアルキメデスの2つの書籍のみです。彼はてこの原理についても記述を残しています。それは、今日誰でも知っている、両端のおもりの重さの比が、支点からの腕の長さの逆比に等しいときてこは釣り合うというものです。また、支点にかかる力は二つのおもりの重さの合計と等しくなります。
中略
アルキメデスは両端のおもりの重さが腕の長さの逆比でないとき、てこは釣り合えないことを示しました。
近代の研究者、スティーブンやガリレオは、アルキメデスのてこの原理に関する論証を簡略化しました。
中略
アルキメデスの論証に欠陥があると信じるものもいたようです。彼らはそれぞれ違った方法でてこの原理の論証を厳密化しました。しかしながら、これらがアルキメデスの論証の簡単さを損なうのみで、てこの原理の妥当性に何ら付け加えるものがないことは明らかでしょう。
アルキメデスのてこの原理の論証に補足を加えることを試みた人々のなかで、特にヒュージンに言及しなければなりません。彼はてこの原理の論証という短い本を書き、この本は1963年に出版されました。
中略
ヒュージンの論証は独創的です。しかし、アルキメデスによって見出された原理のいずれ部分を置き換えるものではありません。

2.
中略(様々なてこの原理の証明が延々と続きます)

私は私がロバーバルの論証に言及したことが必要なことであると信じます。ロバーバルの論証がスティーブンの定理に対する初めての厳密な証明であることののみがその理由ではなく、調和に関する論文がもはや忘れ去られ、誰も探そうとしさえしないと思われるため、この言及が現代において大変貴重であることがその理由です。本音をいえば、私がてこの原理に関する詳細を述べたのは、科学における思考のながれを辿ることや、独創的な思想家が辿った道を辿ることが、今日可能なもっと早い道を辿ることと同じくらい好きな人々を楽しませるためだけのためなのです。4

8.ロバーバルのあと、力の合成の発見にいたるまで、静力学に関する論文は機械力学の枝に何ら付け加えるものがありませんでした。
中略
デカルト、トリチェリ、ワリスはここでは言及しません。なぜなら彼らは釣り合い状態の定義として原理を採用し、その証明をしないという姿勢をとったからです。その原理とは仮想速度の原理にやそれに類するものです。5
9.二番目の基礎的な静力学における原理は力の合成です。それは以下の仮定に基づいています。すなわち二つの力が相異なる向きを向いていて同時に一つの物体に作用しているとき、二つの力の大きさは同一であるというものです。大きさが同一であるとは物体に生じさせる速度が同じであるということで、その速度はそれぞれが独立に作用したときに生じさせる速度と一致します。
中略
これは力の合成と呼ばれています。
スティーブンの三角形の3つの辺に大きさが比例かつ平行な3つの力の釣り合いに関する定理は、力の合成から直ちに導かれる結果です。むしろまったく同一で表現が異なるといってもよいかもしれません。しかし力の合成の方が簡単かつ自然な考え方に基礎をおいています。一方スティーブンの定理はあまり直接的でない考察に基礎をおいています。

10.アリストテレスの残した文章などを見ると、古代人は速度の合成を知っていたようです。幾何学者たちは曲線の記述に速度の合成を原理的に6用いています。たとえばアルキメデスの螺旋などです。
中略
運動の第三法則の2番目の系として、ニュートンは、力の合成と分解からなぜ力の釣り合いの法則が簡単に導けるのか、簡単に述べています。
中略
従って、てこの原理力の合成は常に同じ結果を与えるのにも関わらず、一方における最も単純な例題がもう一方における最も困難な例題となってしまうことは注目に値します。7
中略 力の合成に関する歴史が延々と続く

16.よやく三番目の原理にたどり着きました。仮想速度の原理です。仮想速度とは釣り合っている物体が、もし釣り合わなくなった場合に持つであろう速度です。つまり、その物体が運動の初めの瞬間にもつであろう速度です。

17.仮想速度の原理はもっと一般的な流儀で表現できます。それは、任意の物体や質点からなる任意の系が任意の力の作用をうけていて釣り合っているとき、それぞれの質点が微小な距離(仮想速度)をバラバラに動く微小な変化を与えられたならば、力の総和、ただしそれぞれの質点が力の方向に動いた距離で重み付けした、は必ず0になるというものです。ただし、力の向きと同じ方向に動いた場合その小さな距離は正と考え、逆向きに動いた場合は負と考えます。8
ジョン・ベルヌイは、少なくとも私の知る限り、初めて仮想速度の原理の強力な一般性と静力学の問題を解く実用性に初めて気づいた人物です。
中略
一般的に、釣り合いの科学において見出される総ての一般原理は仮想速度の原理と同一であり、ただ、異なる様式で表現されまた考察されてきただけなのだ、といってしまってよいと、私は信じます。9
しかし、この原理はただ簡潔で一般的であるだけでなく、物体の釣り合いに関する総ての問題をカバーするような一般の数式で用いられる表現として、他にない価値や利点を持っています。我々はこの数式を完全に発展させ、さらに、この原理を以前よりもっと一般的な意味で提示し新しい応用例に対して利用していきます。
lever.eps

(訳注:テコの原理は仮想仕事の原理、$pdP+qdQ=0$の形でかけます。幾何学的に$dP:dQ=A:-B$ですから、$dP=Adt,dQ=-Bdt$として$(pA-qB)dt=0$よりてこの原理$pA=qB$を得ます。)
Composition_of_forces.eps
(訳注:$\sum \boldsymbol{f}=\vec{\boldsymbol{0}}\Leftrightarrow\left(\sum \boldsymbol{f}\right)\cdot\delta\boldsymbol{u}=0\Leftrightarrow\sum\left(\boldsymbol{f}\cdot\delta\boldsymbol{u}\right)=0$)
18.仮想仕事の原理に対しては、それが指導原理として選出されることがまったく当たり前でないことを指摘しておかねばなりません。しかしそれがここまでに見たように、二つの原理(てこの原理と力の合成)から導かれた、力の釣り合いの法則に関する一般的な表現であることは確かめることができます。従って、仮想速度の原理の論証は、多かれ少なかれこれら二つの原理に依存しています。しかし、てこの原理力の合成に依存しない一般原理もあるのです。機械力学者たちは皆、この原理をてこの原理力の合成の法則に関連付けてきましたが、むしろそれは仮想速度の原理の自然な根拠であるように見えます。この原理は滑車の原理と呼ぶのが適当でしょう。
いくつかの滑車が同じブロックに取り付けられたものを、polispasteとか滑車ブロックと(訳注:日本語では輪軸でしょうか。)呼びます。そして、一方は固定され一方は動ける二つの滑車ブロックからなる組み合わせは力と動けるブロックの重さの比がこのブロックに集まる紐の本数に比例するような機械を構成します。ただし、紐は片方は固定され片方は力によって引っ張ることができるものとし、全て並行で摩擦と紐の剛性は考えないことにします。紐の全長にわたり張力が一定であることにより質量は、滑車ブロックを支えている紐の本数と等しい力の本数(訳注:矢印の数をさすと思われます)により支えられていることは明らかであり、それぞれの力(一本の矢印)は紐の自由端に作用する力と等しいこともまた明らかです。さらに、これらの紐が並行であることにより、もし必要であれば、滑車の半径を0にまで減らして考えることで、それらは一本の紐と考えることができます。
pulleies1.eps
(訳注:モバイルプーリーブロックが1動くと、紐の先端は4動きます。一方紐の張力はどこでも同じですから、先端を引っ張っている力を50gとすると、モバイルプーーリーブロックの重さは200gとなります。図では滑車の重さを0とし、おもりで表現しました。従って仮想変位と重量は逆比になっています。また、仮想仕事は力と仮想変位が同じ方向のとき正とします。以上より仮想仕事の原理の形式,fdh+FdH=0,で記述できます。)
中略
$p,q,r$が、系のそれぞれのプーリーブロックに作用する、力と同じ方向で、運動を引き起こすような微小な変位を表すとしましょう。また、$P,Q,R$が、それらのプーリーブロックに取り付けられた滑車の紐の数を表し、一本一本の力は同じとしましょう。すると、当然、変位を表す$p,q,r$は動ける滑車がどれくらい固定された滑車に近づくかを表しています。滑車は近づこうと引っ張り合っていますから、滑車の周りに巻かれた紐の長さは$Pp,Qq,Rr$だけ減ることになります。10従って、紐の長さが不変であることにより、全体として$Pp+Qq+Rr$だけ減ることになります。結果的に、$P,Q,R$によって表される力は次の方程式が満たされるとき釣り合いの状態にある、といえます。11

(1)
\begin{align} Pp+Qq+Rr+\cdots=0, \end{align}

これは一般の仮想速度の原理に対する解析的表現です。12